逆境を経た人が、そのあとで変わることがあります。これを個人の資質や根性の話として語ると、そこで止まります。研究の側に、これを扱う枠組みがあります。
PTG(Post Traumatic Growth)
心的外傷後成長という概念があります。PTG、Post Traumatic Growth。Tedeschi と Calhoun が1996年に提唱したもので、トラウマティックな出来事をきっかけとした、人としての心の成長を指します。
PTGでは、5つの領域が測定されます。
一つめは「他者との関係」。他の人とのつながりの中で経験される成長です。
二つめが「新たな可能性」。それまで描いていた人生の道筋とは異なる方向性を余儀なくされるがゆえに、新しい可能性が開けてくる、と説明されます。
三つめは「人間としての強さ」。自分を自分自身がどう捉えるかという、自己認知のポジティブな変容です。
四つめは「精神性的な変容」。信仰や宗教についてあまり考えたことがなかった人が、それを機に考えるようになることを指します。
五つめが「人生に対する感謝」。平凡な毎日に、感謝の気持ちが強く感じられることです。
5つを並べて読むと、気づくことがあります
どれも、順調なときには起きにくい性質のものです。
人とのつながり。描いていた道筋が断たれること。自己認知が変わること。考えたことのなかった問いを持つこと。平凡な毎日に感謝すること。
順調なとき、私たちはこれらを必要としません。必要としないものは、手に入りません。
ただし、ここは慎重に書きます
すべての方が傷つきからPTGを体験することが望ましいというわけでは決してなく、その方なりのプロセスを大切に尊重する姿勢が重要だとされています。
谷に落ちれば成長する、という話ではありません。落ちた人に成長を求めるのは、外側にいる人間の傲慢です。
この留保を外すと、この概念は精神論になります。外さないでください。
制度の側でも、動きがあります
令和3年度の障害福祉サービス等報酬改定で、ピアサポート体制加算(100単位/月)が新設されました。
障害者ピアサポート研修(基礎研修および専門研修)を修了した障害者等を、常勤換算0.5人以上配置することなどが要件です。対象は、自立生活援助、計画相談支援、障害児相談支援、地域移行支援、地域定着支援です。
読み替えると、こうなります。当事者としての経験を持つ人材を置くことが、公的な報酬制度の中で評価の対象になった。
かつては履歴書の空白でしかなかったものが、条件を満たせば、単位という形で値のつくものになっています。
谷の底にあったものが、資産として扱われる場所が、制度の中にできています。
